英日翻訳家デビュー講座Lite「Trial by Fire(対訳 電子版)」

Story

この本のあらすじ

時は江戸時代初期の1619年。

生活に欠かすことのできない資源の供給源である里山の利用権を巡り、長年争ってきた東郷と西郷の村々。

何年経っても一向に解決しない争いに対し、ついに西郷側から驚愕の決着方法が提案される。

「鉄火裁判」――それは、東西の代表者が真っ赤に焼いた鉄の斧(鉄火)を素手にのせ、どちらが先にご神前まで運べるかを競うというものであった。

自分たちの主張は正しいのだから神様が護ってくれる――そんなことを本気で考えていたのか。

さあ、幕府をも巻き込んだ大勝負。東郷からは喜助、西郷からは角兵衛が代表に選ばれ、決戦の日に向けて準備が始まる。

苛酷な勝負に挑む喜助と角兵衛の運命や如何に…。そして、一族と地域の名誉、村人らの生活をかけた勝負の行方は…。

Appeal

この本の楽しみ方・魅力

江戸時代の百姓たちにとって、山資源の確保は生活に直結する死活問題であった。
そのため、村と村との対立や激しい紛争が絶えず、領主や幕府にしきりに訴訟を起こしていたという。

しかし、こうした問題には常に複雑な利害が絡み合っており、調停は困難で、何十年、何百年かかることもあったようだ。
究極の策として、苛酷な勝負で神様に判断を委ねるというのは、現代ならあり得ない発想だが、当時はそれだけ切実だったのだろう。

本作品は史実を基にした時代小説であるため、ストーリーはもちろん、400余年前の日本の農村や裁判の描写も、読者は非常に興味深く読めるはずだ。
読後、この鉄火裁判そのものや神判を少しでも調べれば、さらに深く楽しめるだろう(なぜ角兵衛が代表?等)。

ただし、まずは予備知識なしで読むことをお勧めする。サスペンスとも言える緊迫感が漂う本作は、作者の見事なストーリーテリングに素直に翻弄されながら読むのが一番である。

ブックレビュー

ブックレビュー

本作品はレベッカ音羽氏の短編集『The Mad Kyoto Shoe Swapper and Other Short Stories』の中の一遍であり、現在の滋賀県蒲生郡日野町で実際に起こった出来事を基にしたフィクションである。

物語は全編を通して、簡潔で抑制の効いた文章で進む。しかし、突然、衝撃の事実が告げられ、読者は感情を大きく揺さぶられることになる。

さらに読み進めると、次は、えっ、まさか…と不安に駆られたり、緊張が走ったり…。抑えた筆致が逆に緊迫感を増幅し、読者はすっかり物語の世界に引き込まれて、ページを繰る手が止まらなくなるはずだ。まさに今にも落ちそうな吊り橋を渡っている気分。

怖い、でも早く渡り切りたい(=先が知りたい)…、そんな気持ちでラストまで一気に読んでしまう。

が、終わったと思うと、最後の著者注で、もう一度ガツンとやられるのだ。巫女が舞うシーンや風景の美しい描写、余韻の残るラストなども印象的で、静と動のメリハリの利かせ方も見事。心に残る名作だ。

この本のもう一つの楽しみ方

フルーツフルイングリッシュの英日翻訳家デビュー講座Liteでは英語の短編をテキストに、受講者様それぞれが作品をまるまる一人で翻訳します。二回の添削を受け、仕上げた翻訳作品のなかから公式アワード金賞を受賞すると、英日対訳本が発売されます。

対訳本

この対訳本は見開きで左ページが英語の原書、右ページが日本語の翻訳作品となっていますので、原書をご自身で翻訳したものと対訳本の和訳とを対比してみるのも良いですし、英文読解のトレーニングに和訳を活用することもできます。

訳者紹介

訳者

河合 真紀子

広島県生まれ。中学3年生の時に、当時流行っていた洋楽の歌詞を訳し、帰国子女の友人と比べあったのが、翻訳の道の第一歩。お遊びとはいえ、人によって日本語の選択も文体も違うことが面白かったのを覚えている。一度始めるとのめり込んでしまうため、翻訳は子育てが一段落してからと決め、約20年間、在宅で英語講師を。ほぼ毎日英語に触れ続けたおかげで、結果的に英文を読む力が向上し、現在、翻訳を心から楽しんでいる。

書籍情報

タイトル
Trial by Fire (対訳 電子版)
邦題
鉄火裁判
著者
Rebecca Otowa
訳者
河合 真紀子
ジャンル
フィクション
ページ数
48ページ
ISBN
978-4-9912684-3-4 C0097
価格
定価990円<税込>