【文芸翻訳】ブックレビュー 日英翻訳の大家ドナルド・キーン『英文収録 おくのほそ道』

翻訳家のキーパーソンの作品

こんにちは、英日翻訳家デビューコース、インストラクターのK. Yukaです。
今回、自身初の翻訳本ブックレビューとして、
『英文収録 おくのほそ道』(松尾芭蕉著、ドナルド・キーン訳)を
皆様におすすめしたいと思います。

ドナルド・キーン氏の名前は、英語学習者の方ならよくご存知かもしれません。
ドナルド・キーン氏は古典を含めた日本文学にとても造詣が深い方で、
また三島由紀夫や阿部公房といった日本の文豪とも親交があったことで
私たちにとってはとても有名なキーパーソンです。

そして、ここでご紹介する『英文収録 おくのほそ道』には、
『おくのほそ道』原文と一緒に、キーン氏が手掛けた英訳が
一緒に収録され、それぞれを比較できるようになっています。

 

先輩翻訳者から仕事術を学ぶ大チャンス

ドナルド・キーン氏は日英翻訳の大家としてとても有名で、
翻訳を学ぶ私たちにとっては大先輩的な存在です。
原文と英訳を一緒に収録している『英文収録 おくのほそ道』からは、
そんな大先輩が日本の古典文学作品をどのように訳したか、
原文と訳文を見比べながら勉強や研究をすることができます。

例えば、江戸時代の日本の風土や風習を英訳するのは
日本人の私たちにとってもとても難しく思えるのですが、
キーン氏はそうしたひとつひとつに丁寧な仕事をしています。
時には訳文の中で、時には自身で注釈を付ける形で
日本文化を英文へときめ細やかかつ正確に翻訳し、
日本の歴史について詳しくない外国の読者にとっても
すんなりと読んで理解し、情景を想像できるのがポイントです。

 

俳句を英語の俳句ルールにそって翻訳

さらに、『おくのほそ道』と言えば、芭蕉やその弟子の曽良が詠んだ
俳句がたくさんちりばめられていることで有名な一冊です。
キーン氏は文中に登場する俳句をすべて、五・七・五調とは言わないまでも、
英語の俳句のルールやリズムに基づいて訳しています。

例えば、英語俳句では1つの俳句を3行に分け、
1行2-3-2くらいの音節数で、切れ字の代わりにダッシュなどを入れて
訳す、というルールが存在します。

 

ドナルド・キーン氏は芭蕉と曽良の句をそれに従って英訳することで、
俳句文化のない国々の読者でも、俳句のリズム感や余韻を味わえるよう、
翻訳者としてプロの仕事をしているのです。

自分の俳句ならともかく、他人の作品を全部ルール通りに
翻訳するのには相当な苦労が必要だったと思います。
その中で『おくのほそ道』の俳句を最初から最後まで仕上げる姿勢は
まさに翻訳者の理想として、見習いたいところです。

 

日本文化のおさらいにもおすすめ

このように、翻訳術の勉強のバイブルともいえる
『英文収録 おくのほそ道』ですが、
日本文化を改めて学び直すための機会としても
有効活用できそうだと思います。

『おくのほそ道』を通じて古文と英語学習に向き合うことで、
精神的に洗練され、深みのある日常を過ごすのも良いですね。

翻訳の大先輩から仕事術や英語学習のヒントを学び、
日本の古文に親しんで充実した日々を送るために、
この機会に『英文収録 おくのほそ道』を読んでみませんか?

 


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ABOUTこの記事をかいた人

学習塾の英語指導や教材作成の経験を持つ講師。現在では英日翻訳も手掛け、日々「ネイティブらしい表現」を目にしています。その経験を生かし、文法面を細かく指導してくれるだけでなくだけでなく、どうしたらネイティブから見ても自然な表現になるのかを丁寧に解説をしてくれます。 座右の銘は「Push myself ever onwards to try new things, and to not be afraid to step outside my comfort zone.」