【未来の翻訳家発見?!】地元の小学校で「翻訳レッスン」

みなさん こんにちは!
英日翻訳講師のMisaです。

年に一度、わたしは地元の小学校で「翻訳レッスン」をおこなっているのですが、今回はそのときの「思いがけないエピソード」をご紹介します。

「キャリア教育の一環として「翻訳レッスン」」

 

みなさんは「キャリア教育」という文部科学省が推進する教育をご存知でしょうか?

簡潔にいうと、子どもたちに「働く」ということに意識や理解や興味を持たせる教育で、わたしの地元の小学校では外部から講師を招き、「地元にはこんな仕事がある」「地元にはこんな仕事をしている人がいる」ことを子どもたちに紹介しています。
で、わたしも、その講師のひとりとして毎年、「翻訳レッスン」をしているというわけです。

わたしの担当は5年生。現在、小学校では3年生から「外国語活動」、5年生から「外国語」という教科として英語を学んでいるので、5年生ぐらいが「翻訳」を体験するのにちょうど良いころだと、先生方が判断しました。

 

5年生のレッスン

レッスン内容は、まず、海外の子ども向け映画や日本のアニメなどを例にとって、「翻訳」というものを紹介。そのあと、「翻訳」の手順を簡潔に説明し、ポイントは「話し手の年齢やキャラを考えて、言葉遣いや口調を決め、日本語に直す」ことだと伝えます。

そしていよいよ、実際に「翻訳」を体験! 3人の人物(小5の男子、小5の女子、88歳のおじいちゃん)の自己紹介文を、話し手の年齢やキャラを考えて言葉遣いや口調を決め、日本語に直してもらいます。そのあとみんなで、「訳文発表」をします。

 

「訳文発表は大盛り上がり!」

 

 

 

 

さて、この「訳文発表」が、毎年、大盛り上がりなんです!

まず、子どもたちと同じ小5の男子と女子の自己紹介文を訳し、翻訳に慣れてきたところで、88歳のおじいちゃんの自己紹介文を訳してもらうのですが、このおじいちゃんのパートになると、子どもたちの想像力や創造力が炸裂するんです! おじいちゃんの自己紹介文はこんなのです~。

Hello, my name is Jim.
I’m 88.
I like melons and ice cream.
But I don’t like milk.
(キャラ設定:ジムはしっかり者で食いしんぼうの、88歳の元気なおじいちゃん)

 

 

この自己紹介文を読むと、「えっ、どこでそんなに盛り上がるの~?」と思いますよね。

この教材はわたしが作成したんですが、別に盛り上がりを期待して作ったわけではないんです。でもこの教材を使用した最初の年に、「子どもたちの想像力と創造力の豊かさ」と「つい〝落ち〟をつけてしまう関西の子どもたちの習性」(笑)をひしと感じることに~。

使用した単語は、5年生でも簡単に読めるようなスペルのものにしようと、melons、ice cream、milkを選びました。それが、思いがけない展開を呼ぶことに!

なんと! 子どもたちは「ice creamはlikeだけど、milkはdon’t like」というところに〝因果関係〟を見出して、それを訳文にやんわりと、もしくは過剰に(笑)盛り込んできたのです! しかも、ほとんどの子が(7割ぐらい)こういう「盛り」を入れてきた~! ではまず、やんわり派の一例を紹介しましょう!

 

●やんわり派の一例

やあ、わしはジム。
88歳じゃ。
好きなものは、メロンとアイスクリーム。
アイスクリームは好きなんじゃが、牛乳は苦手じゃ。

というふうに、「アイスクリームは好きだけど、牛乳はきらい」という展開にして、「アイスクリームには牛乳が入っているけど、牛乳は飲めない」というアイデアをやんわりと訳文に込めているんです。すばらしい想像力と表現力ですよね!

では次に、過剰派の一例を紹介しましょう!

●過剰派の一例

やあ、わしゃジムだ。
88歳になる。
わしゃ、メロンとアイスクリームが大好きだ。
だが牛乳は、腹が痛くなるからきらいだ。

というふうに、「牛乳がきらい」な理由までつけ加えてあるんです~! 「牛乳はくさいから飲めない」とか「腹がゴロゴロするからきらいだ」とか「昔から飲んでいて、もうあきた」など、まさに「ジムというキャラ」に〝勝手に(笑)〟なりきっているんです! 想像力も創造力も、なんとたくましいのでしょう! それに、やっぱり関西の子、どうしても「落ち」をつけたくなっている~!

 

「わたしはジレンマに……」

 

このような子どもたちの「訳文発表」を聞きながら、わたしは内心、感心しながらも焦っていました~。「ああ、そんな文脈になるように、意図して作ったわけじゃないのに…。すごい想像力! でも、理由までつけ加えるのは明らかにやり過ぎやわ…」

でも、子どもたちは積極的に自分の訳文を発表し、声色までおじいちゃんっぽくしたりしてノリノリ~! 拍手や笑いが巻き起こっています。

ここで、「理由まで加えるのは、やり過ぎです。それは自分の想像であって、ジムが実際に言ってるわけではないので、理由はカットしましょう」なんて言うと、水を差してしまう……。わたしはジレンマにおちいりました。加えて、わたしは子どもが大好きで、つい甘くなってしまう習性(笑)があるんです。

そこで、「あらあら、すごい想像力ですね! ちょっとやり過ぎですよ」と言うにとどめ、詳しくは訳文を提出してもらって、丸つけするときに書くことにしました。

こうして図らずも、小学校でのレッスンで「原文解釈に自分の想像力が入り過ぎてしまった訳文」を目にすることに……。翻訳の学習を始めたときの自分を思い出し、思わず苦笑いしてしまいました。

 

「子どもたちは表現力も豊か!」

 

さて子どもたちは、想像力や創造力はいうまでもなく、日本語の感覚や表現力もすばらしいんですよ!

likeは「好物だ」「大好物だ」「目がない」、don’t likeは「苦手だ」「むりだ」「ごめんだ」「えんりょしておく」、さては、milkは「牛の乳」と訳している子もいて、びっくり! また、どの文も「・・・・・じゃ。」や「・・・・・じゃよ。」で結んでリズムを出している子、「体言止め」をうまくはさんで生き生きとした調子を出している子、「わしゃ」や「わしゃあ」で文を始め、「・・・・・じゃ。」で結んで語りかける感じにし、「日本昔話」っぽく仕上げている子など、どの訳文もジムという「キャラ」や、自己紹介という「セリフ」をしっかりと考慮して作ってあるんです。

このように「ice creamとmilkの間につながりを持たせた訳文」は、毎年、7割を超え、過剰派の数は5割に達しそうな年もあるほど。
スペルの読みやすさを重視して作成した教材が、図らずも、子どもたちの想像力と創造力の発揮につながり、また図らずも、「原文解釈に自分の想像力が入り過ぎてしまう」という「翻訳学習者あるある」につながるなんて。

ほんと、小学校は「思いがけないエピソード」の宝庫です!

 

 


邦楽・洋楽のヒットソングで英語を学ぼう!


名曲を訳しながら解説♪翻訳家の言葉の選び方

名曲を訳しながら解説♪翻訳家の言葉の選び方


プロの翻訳家が実際に訳す過程をイチからお見せします!
文芸翻訳の中でも特に深い読解力と言葉選びのセンスが要求される楽曲翻訳について、一行ずつ丁寧に解説した飜訳集。
日本語・英語の曲、合わせて12曲が収録されています。一緒に翻訳をしていくことで、プロならではの技術が習得できます!

詳細はこちら: https://www.fruitfulenglish.com/customers/G15.html

 

 

 

フルーツフルイングリッシュで英語表現の楽しさ感じてください 。初めての方には英作文添削チケット2回分をプレゼント。
「無料英語テスト800問(解説付)」メルマガも大人気。今すぐチェック!

英語テスト800問・英文添削2回が無料!
翻訳家のたまご

※このブログでは英語学習に役立つ情報アドバイスを提供していますが、本ブログで提供された情報及びアドバイスによって起きた問題に関しては一切、当方やライターに責任や義務は発生しません。
※ここでの情報や助言を参考に英文を書いたり下した判断は、すべて読者の責任において行ってください。ここに掲載されている記事内の主張等は、個人の見解であり当社の意見を代弁・代表するものではありません。

1 Star (10 イイネ!が押されています)
この記事が良いと思ったらイイネ!を押してください。
読み込み中...
 HOMEへ戻る 

コメントする

コメントは認証制です。執筆者に認証されるまでは表示されません。

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

兵庫県出身。大阪女学院短期大学英語科、Gwinnett Technical Institute Travel Management学科卒業。電機会社勤務、英語塾経営・運営を経て、翻訳業に従事。現在、児童英語講師と翻訳通信講座添削トレーナーも務める。 翻訳実績(和訳):ノンフィクション(人文系)、コミック(英文学対訳シリーズ)、雑誌(クラフト系)、映画関連資料(公式サイト、劇場用パンフレット、予告編、特典映像、プレスリリースなど) 『趣味は洋画と洋楽(〝あの〟映画を観てからQueenに夢中!)鑑賞、阪神タイガースの応援(田淵・掛布時代からのファン! わっ、古ぃ~)。日課は20分程度のウォーキングとストレッチで、運動不足解消のため両手両足を大きく振って歩くので、すれちがう人から「お! がんばっとるな!」と声をかけてもらっています(笑)。そして夜はお酒のアテづくりと「家呑み」。毎晩8時以降は居酒屋の女将に変身します!』