【様々な翻訳】翻訳迷子現象にご用心

翻訳家masako先生による翻訳ツールを使うときの注意点n

翻訳支援ツールの注意点

皆さんこんにちは!
英日翻訳家デビュー講座の講師Masakoです。

さて前回は、スペルチェッカーやTrados, MemSource, MemoQなどの翻訳支援ツール(computer assisted translation tool: CAT tool)の落とし穴についてお話ししました。

いずれのCATも基本的な操作方法はほぼ同じです。
蓄積されたデータから単語単位や文単位で統計的に何%マッチしているのかを割り出して訳文を抽出していきます。

画面に現れる訳文例の精度も選択可能です。
例えば、30%以上と設定すると、データの中から30%以上マッチする訳文の見本がずらりと並んで表示されます、その中から100%に近い文を選び、原文と比較してマッチしていない箇所がマーカーで示されるので、その箇所を書き換える……という手順です。

前回はスペルチェッカーもCATツールも100%信用するなかれとお話したのですが、実はほかにも気をつけなければならないことがあるのですよ。

 

長い文のなかで迷子に…

こういったCATツールを使用すると、文単位で訳して行くため、画面上に表示される文の数は極端に少なく、長い文が続くとこの傾向はさらに強まります。

紙の原稿を使用していたころは、段落ごとの把握も簡単でしたし、自分が今臨床試験の実施計画書(protocol)を訳しているのか、最終報告書(study report)を訳しているのかなど、また実際に文書の何章目のどの部分を訳しているのか、ページをめくってみればすぐに分かりました。

紙の原稿に自分で印をつけたり、注意事項や単語・略語などを書き込んだりすることも可能でした。

もちろん、CATツールでもリマインダーとしてコメントを挿入することもできますし、あまりに長い文は分けることも可能。
その逆に二つの文を一文にまとめることも可能です。書式に則った訳文が見える欄もあります。ですが、一文一文に集中するうちに、どうしても迷子になってしまうのです。

特に、自分がテキスト文を訳しているのか、表中の文を訳しているのか、単に副作用用語を並べているだけなのかわからなくなると、これらの違いを訳文に反映できなくなってしまいます。

表中の文の場合は、そのスペースが限られているため、記号を多く使用するのに対して、テキストでは表中の数字などをもっと開いた表現で表示します(例えば、表中では≥X%と表示するところをテキストではX% or moreまたはnot less than X%と表現)、またテキストの文頭に数字がくる場合はひらいた表現にします(例えば、表中では89 subjectsとするところをテキスト内ではEighty-nine subjectsとする)。

このように、CATツールでは原文と訳文両方ともに一画面上で見ることができる反面、全体像が見えなくなって、迷子になることが多々あります。
わたしの対応策は、短い文であればプリントアウトする。長い文であればラップトップをCATツールで作業中のデスクトップの隣に置いて、全文を表示させることです。
(実はまだまだ紙の媒体が大好きなアナログ人間なのです)。

 

添削でも見かける「訳文の迷子現象」

と、ここまではCATツールを使う際の落とし穴、「訳文の迷子現象」についてですが、英日翻訳家デビュー講座で、これまで取り上げられた小説でも同じことが言えるのではないでしょうか?

ひとつの文や単語を丹念に熱を込めて検索し、調べ、模索するうちに、全体像が薄くなって遠ざかってしまう。
あれ! わたし誰の短編のどの部分を訳していたのかしら? と自分が迷子になっていることに気づいたことはありませんか?
用語や言い回しを選択する際には、必ずコンテキストに見合ったものを選択し、文章としてつなげて、はじめて意味のある文にしていかなければなりません。

著者はいったいここで何を言いたいのか、この段落はなぜここにあるのか、全体を通したテーマはなにか?
最初は一文ごとに訳していきますが、次には段落ごとに考えてみましょう。段落ごとのテーマにマーカーをしてみてもいいでしょうし、訳文中に傍点や太字で示してもいいでしょう。

そうそうあの要領です。
美術館にて絵を鑑賞する際に、距離数センチまで近寄って細部の筆さばきや絵の具の盛り方をみたあとには、数歩下がって全体の雰囲気や光の具合、構図を堪能する。さらに数歩遠ざかって、その絵の醸し出すエネルギーやオーラ、香りを感じる。これを何度も繰り返す。

いかがでしょう、翻訳でも是非試してみてください。

 

 


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翻訳家のたまご

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ABOUTこの記事をかいた人

商社勤務。英国へ語学留学しCambridge English Certificateを取得。帰国後外資系企業に勤務。その後結婚して夫の転勤先である米国カリフォルニア州、テキサス州、さらにアフリカのナミビアを転々とする。 それぞれの地域のカレッジにて英語、スペイン語、数学、歴史など一般教養を終了し、ナミビアでは、南アフリカ大学の通信教育にてPsychologyを専攻。 1998年に帰国し、2000年にフリーランス「医学翻訳家」として稼働開始。医学分野において創薬(製剤試験、動物試験)、治験関連文書、承認申請資料、照会事項、文献、製薬品質管理、副作用報告書等々、様々な文書の英日、日英翻訳を手掛けて今日に至る。 <趣味や日課> 昔から単純なパズルゲームが好きで、現在は3マッチパズルにはまってます。他には読書。Amazon Primeでドラマや映画を鑑賞(CMがなく、好きな時間に連続して見ることができるので、国内、海外、ジャンルを問わず興味がわいたものを観ますが、近ごろはやりの『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』など常時アドレナリンだらだら系は苦手)、音楽鑑賞。 スポーツ観戦は、相撲に加え、テニスはウィンブルドンのみ、サッカーは四年に一度のワールドカップのみ観戦。フィギュアスケートも観ます。スポーツジムでエアロやヨガのレッスンを受け、マシンに乗ったりしていたのですが、どちらかというとその後の入浴が楽しみ。現在はウォーキングに切り替えています。料理は時短で済ませますが、どういうわけか編み物が好きです。