【文芸翻訳】歌と翻訳と炭酸飲料

翻訳と思い出

みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
今回はフィンランド出身の講師エリカがお届けします。

 

歌詞が解らない子供たち

最近、小学生の頃好きだったアメリカのポップ歌手の曲を
何年かぶりに聞き返したのですが、
ユーチューブのコメント欄に
次のような面白いコメントがありました。

懐かしい!昔車の中で歌っておばあちゃんに叱られたっけ

確かにその曲は、よく聞くとちょっと歌詞がきわどいんです(笑)
しかし、小学校低学年の私たちにはその歌詞の意味が解りませんでしたし、
そもそも英語がそこまで理解できなかったのです。
おまけに当時は英語が話せない大人が多かったので、
親の前で歌っても叱られることはありませんでした(笑)

同じ歌手の別の曲に、次のようなコメントが付いていました。

この曲はイタリアでも有名なんだけど、みんな英語がわからなかったので適当にそれっぽく歌ってたよ

このコメントには少し感心しました。
なぜなら、まさに子供時代の私たちがやっていたのと同じことです。
自分たちだけでは歌詞がわからないので、
英語が話せる高学年の子たちに歌詞を教えてもらったり、
適当にそれっぽい音で歌っていたりしたのです。
これは英語圏以外の子供なら誰もがやったことなのかもしれませんね(笑)

「海外のバンドにハマって英語を勉強し始めた」
という話もよく聞きますよね。

この二つのコメントには感心させられつつ
いろいろ考えさせられました。

英語のポップスは今や世界共通と言って良いほど普及していますし、
海外進出を目指すなら歌詞を英語にするのが常識になっていますね。
(最近では例外も出てきていますが)

しかし、英語圏の音楽家が英語で歌詞を書くとき、
通常は「英語があまりわからない層」がまるで眼中になく、
他の英語母語話者を対象に書いていると考えられます。
もちろん「この状況をなんとかしろ!」と言うつもりはありませんが、
聞いている人の大半がある意味で「おいてきぼり」になっているのが
非常に興味深いと思います。

 

「レモネード」とは?

アメリカの歌手ビヨンセが発表した“Lemonade”というアルバムがあるのですが、
アメリカでlemonadeというと、
砂糖、水、レモンジュースから作られたジュースのような飲み物を指し、
現地の人によると子供の頃の夏のイメージが強いそうです。
(こちらのレモネードは家庭でも作れますので、
気になる方は是非レシピを調べてみてください!)

しかし、イギリスや他の国ではlemonadeは
透明で甘い炭酸飲料を指すことが多いです。
家庭で作るジュースとはまた別のイメージですね。
(日本語のサイダー(炭酸飲料)と英語のcider(酒類)の違いにも似ていますね!)

フィンランドもレモネード炭酸文化圏(笑)ですし、
当時の私はアメリカのレモネードを飲んだことがなかったので
Lemonadeというアルバム名を聞いたときはまず炭酸飲料を想像しました。
後になって、まるでイメージの違うものを指しているということを知ったのです。

世界に向けて発信されたものが多くの国で
制作者の意図とは別のものとして捉えられている可能性があると考えると
ちょっとハラハラしますね。
この可能性は翻訳作業でも常に念頭に置いておきたいものですね。

日本語ノート(エリカ先生私物)

 

 


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翻訳家のたまご

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ABOUTこの記事をかいた人

フィンランド出身。日本語能力試験最難関のN1取得。IELTSアカデミックスコア8.5(8はExpert User、9はNative User)。日本語も日本人と見分けがつかないほど流ちょうに使いこなせるN1講師。フィンランドでは小学生のころから英語を学び始め、海外のテレビや映画は吹き替えではなく字幕が使われており、若い世代は英語が話せない人はほとんどいないと言っても過言ではない状態にあります。Erika先生も幼稚園から英語を使って育っており、英語力についても当社英語圏ネイティブ講師がまったくネイティブとそん色ないレベルと評価しています。座右の銘は「Challenge yourself!」