江戸時代の英語

杉田玄白というと日本史で学んだ歴史上の偉人です。
ずいぶん久しぶりにこの名前を
耳にする方がほとんどではないでしょうか?

彼が生きていたのは江戸時代。まだ日本は海外との交易を絶って
「鎖国」を続けていた時代です。長崎だけが外国に開かれていて
主にオランダから海外の先進的な情報を仕入れていました。

「出島」って日本史で出てきましたよね。なつかし~。

そんな辞書もなかった時代に杉田玄白は
「ターヘルアナトミア(解体新書)」などの
オランダ語の本を自ら翻訳し、海外の知識を取り入れていました。

彼の外国語にまつわる苦労話が、彼の著書
「蘭学事始(らんがくことはじめ)」
という本に書かれています。

私もこの当時の事をほとんど知らなかったので
衝撃だったのですが、少しご紹介させていただきます。

「たとえば、『眉(ウェインブラーウ)というものは、
目の上に生えた毛である』というような一句でも、
意味がぼんやりしていて、長い春の一日かかっても理解することができず、
日が暮れるまで考えつめ、たがいににらみあっても、
わずか一、二寸ばかりの文章でさえも、
一行も理解することができないでしまうことであった。」

(杉田玄白「蘭学事始」講談社学術文庫刊 片桐一男全訳注)

私たちはたった一行の理解に2-3日もかけることはできません(しません)が、
この執念、すさまじいものがあります。辞書がなく、気軽に
教えてもらう人もいなかった時代の事ですからその苦労は
想像に難くありません。

「またある日、鼻のところで、
『フルヘッヘンド(verheffend)すているものである』というところにいたった。
しかし、この語がわからない。これはどのようなことなのだろうかと考え合ったが、
なんともいたしようがない。

そのころはウォーテンブック(woordenboek:辞書)というものがなかった。
やっとのことで良沢が長崎から求めて帰った簡略な一小冊子があったのを
参照したところ、フルヘッヘンドの注釈に、
『木の枝を切り取れば、その跡がフルヘッヘンドをなし、
また庭を掃除すれば、その塵土が集まってフルヘッヘンドする」
というように読み取れた。

『これはどういう意味なのだろうか』と、
またいつものようにこじつけて考え合ってみたが、どうにもわからなかった。

そのとき、ふと私が思ったことなのだが、
『木の枝を切ったあと、切り口がなおると堆(うずたか)くなる。
また、掃除をして、塵や土が集まれば、これも堆くなる。
鼻は顔の真ん中にあって、堆くなっているものであるから、
”フルヘッヘンド”とは、”堆”ということであろう。

ということであれば、この語は”堆し”と訳してはどうだろうか」というと、
みなはこれを聞いて、
『いかにももっともなことである。”堆し”と訳せばぴったりであろう』
といって決定した。

その時の嬉しさは、何にたとえようもなく、
世にも至宝とされる『連城の玉」をも手に入れた心地がした。
このように推理しては訳語を決定していった。』

(杉田玄白「蘭学事始」講談社学術文庫刊 片桐一男全訳注)

辞書もない当時、ひとつの単語を理解するのに2~3日考え続けていた
当時の知識人に頭が下がる思いです。

私たちは先人たちの苦労の上に、気軽に辞書などを
使って海外の生まれも育ちも環境も、考えも違う
人たちの考えを知ることができます。

でもつい最近まではそれは難しかったこと。
普段気が付かないですが、私たちは何をするにしても
過去の先人たちの努力の積み重ねの上に生きているのですね。

そして今海外から便利なもの、面白いものが日本に入ってきますし、日本からも
海外に出て行っていますが、これらも誰かが仲介してできている事。

間接的であるケースが多いと思いますが、英語などの言葉が果たす
役割は相当に大きいと思います。

これを読んだ時、自分は比較的頑張ってるななんて思っていましたが、
まだまだ自分なんて彼らに比べたら1mmも苦労してない部類という
事を思い知らされました。

私は、もっともっと頑張る必要があると知る事が自分を動かすための
唯一のエネルギー源です。満足したら成長が止まるとは言いますが、
あなたはどうですか?

ひょっとして、満足、しちゃってたりしませんよね?

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