THE ROAD TO BECOMING A TRANSLATOR
翻訳家への道のり

Masako先生の翻訳家への道のり

大学でPsychologyを専攻していたのは、小児病院に勤務するChild life specialistになりたかったためでした。ところが様々な事情により、単身日本に帰って来ることになり、日本でも南アフリカ大学の通信教育を続けるつもりでしたが、結局のところ勉学もChild life specialistも諦めました。当時の日本では小児患者やその家族をサポートするChild life specialist という概念すらなく、職業として認められてはいなかった。とても食べていける職業ではなかったのです。

経済的に自立しなければならない私は焦っていました。塾の講師などで凌ぎながら、独学で翻訳の勉強を始め、雑誌で見つけた医薬専門の翻訳会社の週1回の勉強会に参加しました。数カ月ほど通ったところ、「あなたそろそろトライアル受けてみたら?」と言われ、これもたまたま目に入った翻訳会社の医薬部門のトライアルを受けたところ、すんなり受かってしまったのです。この時お世話になった勉強会があったことで、今の私があること、とても感謝しています。

当時はネットの揺籃期で、ネットもダイアルアップ、サイト数も少なく、結局慣れない医薬用語、薬理学、解剖学、薬事法などの調べ物で図書館巡りをしなければならないという状況でした。翻訳原稿も紙のやりとりでした。おかげで、PC環境やネットの進化とともに、まさにon the job trainingという形でその成長をつぶさに観察しつつ、必死に習得しながら、医薬分野のもろもろの文書の英日・日英翻訳作業を経験することができました。

原稿の納品や保存は、紙媒体⇒プロッピーディスク⇒メールに添付⇒クラウドという変化のなか、資格と言える資格もない私にとり、受ける仕事はことごとく目新しく、チャレンジの連続でした。当時の私の口癖は「はい、やってみます!」そのこころは、「うわっ〜〜? こんなの見たことない。できるかなあ? 今夜は徹夜かも」。こんな調子でしたが、仕事はコンスタントに入るようになり、それなりの収入も得られるようになりました。とはいえ、「医薬翻訳者」であると自覚するまでにはかなりの時間がかかりました。

ネットの発達によりなんでも容易に検索可能となり、翻訳作業自体も翻訳支援ツールや機械翻訳に頼る時代となった今、当時の私のような右も左もわからない翻訳家の卵をふ卵器で育ててくれる翻訳会社など、まずないでしょう。これから産業翻訳家を目指す方々にとっては、かなりつらい現実ですが、トライアルの時点で、専門性や訳の正確性、入力ミスや訳抜けがないかなど、厳しくチェックされます。この点については、私は本当にラッキーだったと言うほかありません。私を拾い上げてくれた翻訳会社には、深く感謝しております。

このように、いろいろな条件が重なり、感謝すべき人々に巡り合ったおかげで、今の自分があることは、常に忘れてはならない。ググれば即答えがみつかる昨今、ついつい最初に検索にひっかかった用語なり概念なり、また機械翻訳による解釈なりを鵜呑みにしてしまいがちですが、ときにはつと立ち止まって、翻訳の仕事を始めたばかりの頃を振り返り、初心に返ることが大切であるとつくづく感じております。 

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