リサーチの技術
おそらく、どの翻訳家に聞いても、翻訳するうえで必要なスキルの上位には「リサーチ」がくると思う。実際に訳している時間より、調べものをしている時間のほうが多いのではないだろうか。原文の解釈が正しくできていなければ、正しい日本語に訳すことはできないため、リサーチの技術が翻訳の質を左右するといっても過言ではないと思う。
さて、皆さんは、言葉を調べるリサーチの方法をいつく持っているだろうか?「辞書で意味を調べる」ことは皆が最初に行うことかも知れないが(私もそう)、それ以外のリサーチ方法を少なくとも5つくらいは持っていたほうが良いと思う。「多分、こういう意味だろう」と推測で訳したとして、それが誤訳だった場合、信頼度は著しく落ちてしまう。
つい先日まで、科学の歴史に関する本を訳していたのだが、文系バリバリで、理数系の教科はことごとく赤点か赤点ギリギリだった私は、リサーチだらけの日々を送っていた。英語自体は分かるのだか、言っている意味がさっぱり分からない。さらには、日本語で読んでも意味がわからないのだ。なんと絶望的な状況。そこで頻繁に使っていた方法が、画像検索と動画や映画等の視聴だ。
今回は、例えば「binary code(バイナリーコード)」という言葉。binary codeを使った機械の仕組みが書かれており、その次に第二次世界大戦でナチスの暗号を解読する、という趣旨の文章が続いている。機械の仕組みを言葉で読んでも、ある程度までは理解できるが、やはり実際にどのようなものかを見ないと「分かった!」とは言えない。画像で検索すると、文章に書かれていることがひと目で分かる。百聞は一見にしかずだ。(数学が得意な人からはバカにされそうだが‥)
予想通り、機械の全体像や細かい動きまで分かり、ほっと一安心。これで、機械の仕組みの部分は訳せる。次は、ナチスの暗号を解読する部分の文章。この出来事に関して説明しているものがないか探していると、なんと映画があった(それも私が好きな俳優、ベネディクト・カンバーバッチが出ている!)。その暗号機を開発した人物の物語だ。これは、もう見るしかない。好きな俳優の演技も見れるし、翻訳のリサーチもなるし、一石二鳥だ。
おおよそ半ページ分の翻訳をするために一時間半もの映画を見るなど、かなり非効率に思えるかも知れない(ちなみに映画では、歴史的背景、機械を開発した人物について、その機械の仕組みまで、すべて描かれていたので、かなり良く理解できた)。確かに、半分は個人的な趣味だったかもしれないが、原文に書かれていることを完璧に理解して、初めて言葉を訳す段階へ移るため、それができれば何でもありなのである。また、締切に追われながらひたすら机に向かっている中で、たまにこういう楽しみをつくるのは必要だ。
今回は、カンバーバッチのおかげで心折れずに乗り切れた、と結構本気で思っている。「リサーチの技術」とは言ってみたが、要は、自分が理解できる方法を見つけることなのだ。リサーチの方法が見つかった時は、かなり嬉しい瞬間なのである(ある意味、良い訳ができた以上に)。さて、次は、どんな方法でリサーチをしよう・・・