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漢字表記における注意点

by Misa

みなさん こんにちは!英日翻訳講師のMisaです。今回は「漢字表記における注意点」について、経験を踏まえてお話しします。

自分の翻訳原稿を推敲したり、受講生のみなさんの翻訳原稿を添削しているとき、思わず、目線が止まったり、気になってしまったり、細心の注意が必要だと感じることがあります。次のような場合です。

1.表記が統一されていない

同一表現なのに、漢字表記とひらがな表記が混在しているパターン。よく見かけるパターンを以下に記します。

ア)「わかっている」と「分かっている」

イ)「こと」と「事」

ウ)「カ月」と「か月」と「ヶ月」

エ)「きょう」と「今日」

オ)「ひとり」と「一人」

このうち、イ)は特に注意が必要です。わたしも翻訳の学習を始めたころはよくやっていたのですが、「見たことはない」と表記しているのに、「事細かに」と表記していたり――。「コト」の表記は悩ましいものです。一般的なガイドラインを以下に記します。

・普通名詞の場合(具体的な事柄。単独で主語になれる) ⇒ 「事」

事の起こり、事の真相、争い事、出来事、物事、事足りる、事もあろうに、事と次第では、など

・形式名詞の場合(抽象的な内容。単独で主語にはなれない) ⇒ 「こと」

このこと、あんなこと、聞いたことがある、読むことだ、〜することにしている、うまいことを言う、驚いたことに、など。

2.漢字と漢字が連なっている

漢字表現のあと、すぐに別の漢字表現があり、しかも、その組み合わせが、あまり見かけないパターン。以下、説明をします。

ア)店員は季節限定商品が置かれている棚を示した。

イ)彼は今日菓子折りを持って謝罪にいった。

ウ)担当者からは所詮支離滅裂な回答が返ってくるだけだ。

これらの文を頭から読んでみると、ア)は目線が止まることなくスムーズに読めたと思います。イ)は「今日菓子折り」のところで少し目線が止まったのではないでしょうか。ウ)は「所詮支離滅裂」のところで目線がガタガタ≠オたのではないでしょうか。これらの文のうち、ア)の「季節限定商品」という表現は一般的で、よく見かけます。したがって、漢字表現が連なっていても目線が止まることはありません。でも、イ)の「今日菓子折り」やウ)の「所詮支離滅裂」という表現はあまり見かけることがないので、漢字表記が連なっていると、無意識のうちに目が「読み解こう」として、目線が止まってしまうのだと思います。

もちろん、イ)やウ)の表記は間違いではありませんが、このような読み手の目線に親切≠ニは言えない表記は、翻訳者として避けたいものです。書籍や新聞などを注意して読んでみると、イ)やウ)のようなパターンの文章はほとんど見当たらないはずです。

こういうパターンの文章が見つかったときは修正する方がベターです。修正方法を以下に記します。

・適宜、読点を加える

・適宜、助詞を加える

・一部をひらがな表記にする

・語順を変える

・表現を変える

3.使い方に注意が必要な漢字

何気なく使っている漢字の、使い方に注意が必要なパターン。よく見かけるものを以下に挙げます。

ア)娘は三才の誕生日を迎えた。

イ)私達はその案に同意した。

さて、ア)もイ)も、使い方に注意が必要な漢字を使ってしまっています。一見すると、どちらの文も問題がないように思います。

まずア)は、「三才」の「才」が要注意です。正しくは「三歳」。「歳」は「年」を表す漢字ですが、「才」は「才能」や「商才」などの熟語で使われるように「持ち前の能力」を表す漢字で、「年」という意味はありません。年齢を表さない「才」が「歳」と同じように使われるのは、「歳」の画数が多くて書きづらいためと、「歳」という漢字は小学校では習わないため、代替にされているだけだそうです。公用文などでは、年齢はすべて「〇〇歳」となっているはずです。

次にイ)は、「私達」の「達」が要注意です。正しくは「私たち」。「私たち」「学生たち」など「複数を表すタチ」は、ひらがな表記にするのが一般的です。常用漢字表には「達」に「たち」や「だち」という読みはないからです(ただし、「友達」という語でだけは、「だち」という読みが与えられています)。

漢字って、一見して「意味」が頭に入ってくるので重宝な表記ですが、読み手の目線に親切≠ネ使い方を翻訳者として心がけたいものです。原稿作成時や推敲時には、上記の3つのポイントも心に置きましょう。 

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