産業翻訳を覗いてみませんか?[医学翻訳編No.8]
こんにちは、英日翻訳家デビュー講座で添削を担当しておりますMasakoです。
あなたは薬局に行って、お目当ての医薬品を探して、陳列ケースの列から列、棚から棚へと歩き回ったことはありませんか? 近頃の大きなドラッグストアでは、医薬品だけではなく、化粧品、洗剤やシャンプー、食料品やキッチングッズなど多種多様な製品が棚を埋め尽くしていますよね。私たちは毎日なんと多くの製品を使って暮らしているのでしょう。
医薬品の形態
今回は処方薬(Prescription drug: Rx)および薬局で処方箋なしでも購入できる医薬品(OTC drug)、さらには漢方薬(Crude drug)の剤形(Dosage form)についてお話ししようと考えております。
改めて薬局を見回してみて、いわゆる医薬品のみに絞ってみてもその数には圧倒されますよね。胃腸薬、目薬、鎮痛解熱剤、かゆみ止め、咳止めなどなど、多くの製薬会社が競ってそれぞれの薬剤の錠剤、顆粒、液体、ジェル、クリームなどの剤形を製造しているのですから、薬局の棚に数えきれないほどの医薬品が並ぶのも当然です。
また処方薬局では、さらに先発医薬品(Original drug)と後発医薬品(Generic drug)――Generic drugs はある新薬の独占的販売期間の終了後に各製薬会社が競うように製造販売するため、その数も増加します――の両者を扱うわけです。もうその数は天文学的な数にのぼるのではないかと、考えただけでくらくらします。それと同時に、薬剤師さんの仕事も過酷なのではないかと思えます。
剤形の種類
『日本薬局方』では、剤形を以下の11項目に分類して記載しています。(第18改正版:令和3年6月7日発行による)
- 経口投与する製剤(Preparations for Oral Administration)
- 口腔内に適用する製剤(Preparations for Oro-mucosal Application)
- 注射により投与する製剤(Preparations for Injection)
- 透析に用いる製剤(Preparations for Dialysis)
- 気管支・肺に適用する製剤(Preparations for Inhalation)
- 目に投与する製剤(Preparations for Ophthalmic Application)
- 耳に投与する製剤(Preparations for Otic Application)
- 鼻に適用する製剤(Preparations for Nasal Application)
- 直腸に適用する製剤(Preparations for Rectal Application)
- 膣に適用する製剤(Preparations for Vaginal Application)
- 皮膚などに適用する製剤(Preparations for Cutaneous Application)
この11項目のそれぞれにサブカテゴリーがあります。
経口投与する製剤
さあそれでは、わたしたちが「医薬品」で真っ先に思い浮かべる経口投与する製剤の種類を見ていきましょう。
まずは一番身近な
錠剤(Tablets)素錠、フィルムコーティングした錠剤
口腔内崩壊錠(Orally Disintegrating Tablets)
チュアブル錠(Chewable Tablets)
発泡錠(Effervescent Tablets)水に入れると発泡しながら溶解する
分散錠(Dispersible Tablets)水に分散して服用する
溶解錠(Soluble Tablets)水に溶解して服用する
錠剤だけでもこれほど多数の剤形があります。「ああ、そういえばこんなの飲んだことがあるなぁ」と思い出される方もいらっしゃることでしょう。
次いで
カプセル剤(Capsules)
顆粒剤(Granules)
発泡顆粒剤(Effervescent Granules)
散剤(Powders)
経口液剤(Liquids and Solutions for Oral Administration)
エリキシル剤(Elixirs)甘未および芳香のあるエタノールを含む透明な液剤
懸濁剤(Suspensions)
乳剤(Emulsions)
リモナーデ剤(Lemonades)甘未および酸味のある透明な液剤
シロップ剤(Syrups)
シロップ用剤(Preparations for Syrups)水を加えてシロップ剤とする顆粒または粉末
経口ゼリー剤(Jellies for Oral Administration)
経口フィルム剤(Films for Oral Administration)フィルム状の製剤
口腔内崩壊フィルム剤(Orally Disintegrating Films)
どうでしょう、経口投与する製剤だけでもこれだけ多くの剤形があるのですね。あまり馴染みのない剤形には説明を加えました。(いずれも『日本薬局方』より引用、説明については一部改変)。
例えば、胃酸を抑える医薬品(Antacid)ひとつをとっても、錠剤、チュアブル錠、顆粒、液剤、乳剤などが入手できます。私個人としては、口腔内崩壊錠(OD錠)が気に入っています。ラムネ菓子のように、カリコリかみ砕いたりなめたりして服用できるからです(お子様なみですが、高齢社会の現在、幼児だけでなく高齢者の服薬を考慮すると、こんな剤形がますます増えることが考えられます)。
また、『日本薬局方』では、それぞれの剤形の定義だけでなく、製造法にも言及しています。
興味のある方は「日本薬局方」ホームページにアクセスするか、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトで最新版の『日本薬局方』PDFファイルを閲覧することができます。そのなかの、「製剤総則」をご覧ください。全文英訳版もありますよ。
今回は医薬品の剤形について、経口薬のみに絞ってご紹介しましたが、次回は経口薬に限らず医薬品全般の投与方法の翻訳についてご紹介したいと思います。