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産業翻訳を覗いてみませんか? [医学翻訳編No.3]

by Masako

Medical translation 添付文書について〜

こんにちは、英日翻訳家デビュー講座を担当しておりますMasakoです。先回の医学翻訳編No.2では、市販薬のパッケージに挿入されている添付文書(Package Insert)についてお話ししました。(前回の記事)そして次には新薬候補の臨床試験(Clinical Study)についてお話しする予定でしたが、ちょっと順序を変えてみました。

突然ですが以下に示す用語はどんな時に使用するかご存知ですか?


  1. Related, Definite
    (明らかに)関連あり

  2. Probably related
    おそらく(多分)関連あり

  3. Possibly related
    関連があるかもしれない

  4. Unlikely related
    おそらく(多分)関連なし

  5. Not related, Unrelated
    関連なし


上記は新薬の臨床試験または治験中(Clinical Study)もしくは新薬が承認された後に得られる安全性情報の取り扱いに関するもので、治験中や市販後に報告された有害事象(Adverse Event:AE)や副作用(Adverse Drug Reaction: ADR)と投与された薬剤との因果関係(Causal Relationship, Causality)を示す表現です。

治験中に有害事象が観察されれば、被験薬(Study Drug)投与との時間的な関連性、他剤との相性、原疾患の病態や重症度などを考慮して、治験担当医師ら(Investigators and subinvestigators)がこの事象が被験薬(Study Drug)に起因するものなのか否かについて判断します。

現在大きな話題となっている新型コロナワクチンでは、接種後に生じる様々な症状を「副反応」と呼ぶことがすっかり定着していますね。これは新型コロナウイルスの感染を予防するためのワクチンであり、疾患を治療する医薬品ではないため、おそらく上記の有害事象や副作用とは区別するために「副反応」としたものと考えられます。

すなわち副作用(Adverse Drug Reaction)からDrugを抜いた副反応(Adverse Reaction)ということなのでしょう。

新型コロナワクチンについては、アナフィラキシーを除き、特に重度の副反応はないとされていますが、その安全性については、まだまだデータ収集の途上です。

ワクチンの有効性については、米国・カリフォルニア州におけるコロナウイルス感染者の分析で、ワクチン未接種者とワクチン接種完了者を比較し、ワクチン未接種者では感染率が4.9倍高く、入院率は29.2倍高いという表現で示されています。
米国疾病予防管理センター(CDC)Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) on August 24, 2021.

これも疾病予防のためのワクチン類と実際に疾病の治療に用いる医薬品の安全性や有効性の指標とは異なるものですから、注意が必要です。

今後Covid-19の予防的手段ではなく、治療薬または特効薬が開発され、その有効性や安全性を調べる臨床試験が実施されれば、上記のような因果関係を指標にして有害事象や副作用のデータを収集することになります。

産業翻訳を覗いてみませんか? [医学翻訳編No.3]

「有害事象」、「副作用」とは?

さて、投与した薬剤に対する有害事象と副作用に戻りましょう。

医薬品規制調和国際会議(The International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH)―各国の規制当局と製薬企業全体をまとめて、医薬品規制について共通のガイドラインを作成して統一を図ろうとする国際会議―のガイドライン*では、「有害事象」は以下のように定義されています。

Any untoward medical occurrence in a patient or clinical investigation subject administered a pharmaceutical product and which does not necessarily have to have a causal relationship with this treatment.

医薬品が投与された患者または被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと。必ずしも当該医薬品との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。

一方「副作用」の定義は以下のとおりです。

All noxious and unintended responses to a medicinal product related to any dose should be considered adverse drug reactions.

投与された(投与量にかかわらない)医薬品に対する反応のうち、有害で意図しないもの。医薬品に対する反応とは、有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものを言う。

すなわち、投与した医薬品との因果関係が否定できない、または因果関係が疑われる徴候(臨床検査値の異常も含む)、症状、病態などはすべて「副作用」とされるわけですから、添付文書の「副作用」の欄に、たとえ発現率や報告率が低くとも、服薬や投与をためらってしまうようなあらゆる症状が列記されているのは、なるほどと合点がいきますよね。

これに加えて「予測できない副作用」もあります。治験を実施する前に治験担当医師には治験薬の作用機序(Mechanical Action)、薬物動態、これまでに報告された副作用などを記載した治験概要書(Investigator’s Brochure)が提供されますが、治験中や市販後にこれまで記載されていないもの、あるいは記載されていてもその性質や重症度が記載内容と一致しないものは、治験依頼者(Study Sponsor)や企業(Pharmaceutical Company)が規制当局へ報告する義務があります。

これら「予測できない副作用」や新たに得られた情報を盛り込むために、添付文書は定期的に改訂され、その結果副作用のリストが増えていくことになるのです。

次回こそは、臨床試験全体についてお話ししようと考えております。

*ICHのガイドラインについては、ICH公式英文サイトに加え、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ、「レギュラトリーサイエンス」の「ガイダンス・ガイドライン」に掲載されています。ここでは、医薬品の申請時に必要なQuality, Safety, Efficacy, Multidisciplinaryに関する情報がカテゴリー別に英文・邦文ともに掲載されていますので、医薬翻訳にご興味がおありなら、特にEfficacy 2A, Clinical Safety Data Managementを一度は読んでみるとよいかと思います。臨床試験、報告書、市販後副作用報告書などに必要な用語の定義と安全性情報の取り扱いについて非常に多くを学び、知ることができるからです。
また、大きく臨床試験について把握したい場合は、Efficacy 6, Guideline for Good Clinical Practice (GCP) にざっと目を通してみるとよいでしょう。Glossaryには、上記のAEやADRの定義も掲載されています。 

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