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産業翻訳を覗いてみませんか?【医学翻訳編】

by masako

〜Medical translation〜

こんにちは、講師のMasakoです。
出版翻訳に対峙する翻訳分野に産業翻訳がありますね。
産業翻訳にはIT関連、ゲーム、医療、経済、特許などが含まれますが、その中でも私が長年携わってきた医薬翻訳についてご紹介したいと思います。

 

医薬翻訳ってなんだろう?
もちろん医学・医薬品全般に関わる翻訳のことですが、一口に医学・医薬品といっても、その幅は思いのほか広く、例えば医学のみについて考えてみてください。すぐに思いつくだけでも、内科、外科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科と多くの専門科が考えられます。同じように外用、内服用医薬品や医療機器に関しても様々な分野があります。さらに、ヒト用医薬品に限らなければ、獣医科用の医薬品や医療機器も考えられます。ペットの猫や犬、酪農家の牛などに用いる薬剤や医療機器も医学・医薬品の範囲内ですね。

 

医学に関しては、英語の論文、英語による学会関連でのプレゼンテーション、海外から講師を招いての講演会のテープ起こし、輸入医薬品の情報に関するMR(医薬情報担当者:medical representative)向けの講習資料の翻訳など、多岐にわたる英日・日英の翻訳作業が生じます。私が実際に関与した翻訳の変わり種は、大学とある自治体が共同で開発した「運動不足解消のための体操」の図入りのパンフレットの英訳作業でした。「一体誰が読むのだろう?」といぶかしく思っていたのですが、在留外人向けに英語に翻訳する必要があったようです。また、海外から招いたどこかの精神科の教授の講演会で、くだんの教授の話がかなりきわどくて、とてつもなく面白く、ファンになってしまったこともありました。(残念ながら、これ以降この教授との接点は皆無でした。今だったらきっとSNSでフォローしていたことでしょう)。

 

医薬品については、それだけではなく、新薬の発見から開発、承認取得を経て販売に至るまでの工程で生じる様々な作業や試験があります。通常薬剤の候補となる化合物が発見されてから、あらゆる試験を経てめでたく処方薬やOTC薬(市販薬:over the counter drug)となる確率(新薬開発成功率)は、2万5000〜3万分の1とも言われており、大多数の新薬候補が安全性の問題なり、有効性の欠如といった問題、または量産不可能と言った理由により開発途上で脱落していくのです。また、新薬開発には長い時間と莫大なコストがかかります。近年では、この新薬候補の取捨選択過程にAIを活用して、新薬開発時間の短縮を図ろうとしています。

 

こう考えてくると、医学や医薬品に限られた感がある「医薬翻訳」というよりも、medicine, biology, chemistry, health care, welfare, pharmaceutical affairs, drug developmentなどすべてをひっくるめてMedical translationと呼んだ方が、全体像が掴みやすい気がします。

産業翻訳を覗いてみませんか?【医学翻訳編】

出版翻訳とは異なり、自身で営業をかけずに、翻訳会社を介して仕事をいただいている私のようなフリーランスの翻訳者が、文書の作成者や著者と直接連絡を取ることはご法度です。また、新薬に関する文書などは社外秘の情報が含まれていることが多いため、あくまでも翻訳会社のコーディネータを通して疑問点を問い合わせることになります。ですから、自身が携わった翻訳文に翻訳者の氏名が出ることもなく、メディカル翻訳とはとても地味で孤独な職種であると言えます。しかし、裏を返せば、営業に加え、クライアントと翻訳の質や納期に関する折衝など、煩わしい仕事はすべてコーディネータがこなしてくれるわけですから、私としては、時として不機嫌きわまりない我がPCと、さらにはいつまでも覚醒しない自身の脳みそと格闘していればよいわけで、この上なく楽チン。

 

さて、新たな医薬品の開発ですが、前にも言及したように、新薬が誕生するまでには長く険しい道のりです。その随所で、というよりほぼ全工程で日英または英日の翻訳作業が生じます。誕生した医薬品を海外で販売したい場合はもちろん、新薬を輸入したい場合も、販売承認申請のため、または本社との連絡、現地の法律で定められた期間保存を要する文書などの翻訳需要が発生します。ざっと見ても、新薬が市場にお目見えするまでには以下のようなステップがあり、それぞれのステップもさらに細かいサブステップに分けられます。また販売開始後も副反応の情報収集や調査が必要です。


  • 基礎研究

  • 非臨床試験

  • 臨床試験

  • 承認申請・製造販売

  • 新薬誕生

  • 製造販売後調査

  • 副作用報告


 

この長〜い道のりが通例であることを考慮すると、2020年より大きな話題となっている新型コロナウイルス(海外ではCOVID-19: coronavirus disease 2019と呼ぶことが多いようです)に対するワクチンの承認の異例の速さには、驚きましたし、安全性が危惧されても当然であると感じますよね。

 

次回は私たちの生活で一番身近にある医薬品文書である添付文書(package insert)、そうあれです、医薬品を購入すると箱や袋に入ってくる説明文書、これについて実例を交えてお話ししようと思います。 

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