外国語としての日本語事情
フィンランド人講師のErikaがお届けします。今日のテーマは「外国語としての日本語事情」です。
日本語の特徴と言えば…?
私自身は日本語を「外国語」として見ているわけなのですが、一つ面白いことに気づいたことがあります。英語などに比べると、日本語には大きな特徴があります。日英/英日に拘わらず翻訳作業にも関わってくる、非常に重要な特徴です。それは一体何でしょうか?
ヒントがないとわかりづらいと思いますので、一つヒントを与えましょう。何かの様子や状態を表すときに使う単語のカテゴリーです。みなさん、これでわかって頂けましたでしょうか?
正解は……「擬態語」ですね。日本語の小説などを読んでいると、回擬態語の多さに驚かされます。「じろじろ」見る、「にこにこ」笑うなど、意識すればするほど、このような表現がいかにたくさん出てくるのかわかってきます。
そして、漫画だとさらに多いですよね!ときには「こんなにたくさん要らないんじゃないかな…?」と思うほど
コマが擬態語だらけになっていたりします(笑)
英語における擬態語と擬音語
「擬態語」は英語ではmimetic wordと言うらしいです。しかし、「擬態語」自体が英語に存在するかどうかも曖昧です。woof, meow, bang, splash, vroomのような「音」を表すオノマトペ(擬音語)はもちろん存在しますが、たとえば「にこにこ」「じろじろ」「ずらりと」のような、「音を発しない動作の様子」を表す表現が英語で日常的に使われているとは決して言えません。
これは特に漫画翻訳者にとっては死活問題です。なぜなら、英語では表しようがない擬態語が日本語の漫画にはたくさん出てくるからです。その結果、登場人物がぺこりとお辞儀をするコマの背景に「ぺこり」と擬態語が書いてある場合は、仕方なく“bow”(お辞儀)と訳していることが多いです。
もちろん、英語でも動作の様子を表す表現が全く存在しないというわけではありません。英語では日本語と違い、オノマトペや擬態語の代わりに“descriptive verbs”(”strong verbs”ともいう)を使って動作の様子を表すことができます。
例えば「雨が降る」という動作は通常to rainと言いますが、様々な雨の様子を表す動詞としてto pour(激しく降る)、to drizzle(しとしと降る)、to sprinkle(ぱらぱら降る)のようなdescriptive verbsが存在します。逆に日本語の動詞はどれも「降る」になりますよね。
ちなみにこのような擬態語(英語ではstrong verbs)は外国語母語話者にとって習得しにくく、いわゆる永遠の課題です。(私も最近、身をもって痛感しています。)
英日翻訳の場合
一方、英日翻訳の場合は、逆の問題が発生する可能性があります。英語の文章には擬態語がほとんど出てこないので、それを日本語に訳した際に日本語訳の擬態語率が通常より低く、いかにも「英語から訳しました!」という雰囲気が漂う文章が出来てしまう恐れがあるのです。つまり、擬態語の有無は最終的な日本語訳を「翻訳文」たらしめる要因になり兼ねません。
もちろん、ある程度翻訳経験のある翻訳家は日本語訳をより日本語らしくするコツをたくさん身に付けていると思いますが、まだ経験が浅い翻訳家にとっては擬態語が見えないハードルになる可能性もあります。今度翻訳文を読んだり、何かを日本語に翻訳するときは擬態語を意識してみると良いかもしれませんね!