翻訳家の一日は前日の晩から始まる?
私にとっての「翻訳家の一日」は、基本的には前日の晩から始まっています。というのは、本格的に翻訳作業に着手する前には原文原稿の下読みという作業を入れるのですが、当日よりもその前の夜に済ませておきたいからです。
翻訳を始める前の日の夜に原稿を読んでおき、頭の中で一晩寝かせてから翻訳開始したほうが、作業がはるかにスムーズに進みます。これが完全に個人的な好みなのか、それとも脳科学的に適した手法なのかを詳しく検証したことはないのですが、作業効率が3割から5割くらい違ってくるのです。しかも、作業中に疲れたり、集中力を欠いたりするようなこともかなり少なくなります。
さて、それでは下読みのときに具体的には一体どんなことをしているのかというと、原文が比較的簡単なときにはさらっと読み流す程度にしています。一方で専門的な内容のものの場合は、その時点で専門用語の訳語リストを作ったり、配布された資料があればそれにも目を通したりしています。「翻訳の仕事の大部分は調べものが占める」とよく言われますが、こうして下読みをしながらいろいろ調べていると、それもその通りだなと思うことが多いです。
調べもののほか、案件が大型の場合は下読み中に大まかなスケジュールを作ることも。基本的には1日に訳す量の目安を、章やページ単位で判断するようにしています。
とはいえ、私が最近専門としているローカライズ翻訳では、前日の夜にゆっくり下読みをする時間を与えられないことも多くなってきました。
特に、海外のクライアントから小ロットの翻訳作業が日々生じているケースです。こうしたケースでは与えられた作業時間が短く、午後の12時ごろに発注があり、納品は午後4時〜5時とかなり急ぎのスケジュールになることもあります。
もちろん、翻訳ボリュームはそんな短時間でもこなせる量に収めてあるのですが、作業を行うほうはやはり焦ります。そのため、納品が終わるまでは戦々恐々としていることが多いような気がします。
下読みをその日の前に終えてじっくり翻訳できるか、短時間でスピーディーな納品を求められるか。
両方とも真剣さが勝負なので、どちらにも対応ができるような体力や精神力を日々磨いている……つもりです。